【SC21B】ジャンクエッセイ12

 新居に何か届いた。

 じゃーん。これだ。多分新居に引っ越してからはじめての100%無意味な買い物だろう。これは自慢と戒めである。無駄なものは買わないに限るという。

 人生においてなにかものを買うとき、こだわりなく一時しのぎで購入すると無駄に長持ちで捨てられず、後々後悔してしまうことが多々ある。

 例えば我が家ではとりあえず必要だからと買ったちゃぶ台が25年以上にわたり前線で使用されている。しかも状態が良い。デザインはセンスのかけらも感じられず、色や雰囲気が統一された家の中ではどうにも異彩を放っているが、かといって使えるものを捨てるわけにもいかない。

 カラーボックスなんてその最たる例の一つだ。安くて簡易的な本棚として購入すると、そのチープな見た目に嫌気がさし、高価な本棚を買おうと決意する。しかしこれがまた壊れない。安いし分解しやすいので捨ててしまってもいいが、機能的には問題ないのでどうも無駄遣いな気がしてしまう。

 そういった背景から、家具を買うときにはこだわりを持って購入することが大事である。新居に引っ越した私は、この経験からこだわりぬいた結果1ヵ月間は室内には机も椅子もない状態が続いた。しかも結局望むようなデザインの机は世の中に存在しないことが分かったため、自作することとなった。(あまりにも何もない部屋は生活すらままならなかったので座椅子を買った。そして現在この座椅子は非常に邪魔な存在となってしまった)

 もう一つ重要なこととしては、サイズと分解性能だ。サイズが大きいものは当然重量もあるだろう。移動もしにくく掃除もしにくい。はじめはいいかもしれないが、飽きてきたり不満が生じるとどうしようもなくなってしまう。いかなるものであっても邪魔になったら少なくとも分解してしまえる構造であればその場はひとまず収まる。

 こういった点は上記のような家具に限らず、ジャンク品を漁る際にも重要になる。購入する際は直せるかどうか、コスト面で有利か、というだけではなく直った後の利用方法、失敗した際の扱い方というものを十分に考慮する必要がある。これまでのジャンクエッセイの記事からわかる通り、私はそこまでイカれた製品をどうにかしているわけではない。自身で直せそうでかつダメでも容易に捨てられることが前提になっている。したがって日の目を見ることなく散っていったガラクタも数多く存在するが、彼らはそこに存在した証拠を残すことなく私の前から去っていった。

 これらの前提が重要項目として存在する中で、今回のジャンクエッセイでは間違いなく機能的に無意味で、サイズも大きく処分は難解で修理もできるかわからない、コスト的にも全くうまみのないものを、ただほしかったといる理由で手に入れたのでここに記載したいと思う。

 ー冷蔵ショーケース。それは夢であった。我が家は飲み屋ではないし、何かの店ですらない。人が多く訪れるわけでもないし、何か飲み物を愛用しているわけでもない。冷蔵庫は十分なサイズのものがすでに自宅にあり、中身が詰まっていて新たな保存先が必要なわけでは当然ない。ーただほしかっただけである。

 是非想像してほしい。自宅に冷蔵ショーケースがあればー。その冷蔵ショーケースは愛すべきGUINNESSビールの外観を備えており常に光続けアル中を誘惑する。もちろん、十分に冷えたビールがそこにはあり、仕事から帰ってすぐさまその扉を開けて一杯。普通の缶ビールのはずなのに何やら特別に感じる。

 そしてなんだってオシャレだ。 必ず自宅には必要だ。

 だが冷蔵ショーケースは新品では安価では手に入れられない。また考えることは大体みんな同じであるため、オークションに出ているメーカーデコレーション冷蔵ショーケースは特に高価だ。さらに部屋にあってオシャレに見えるような飲料メーカーのものはプレミアムだ。例えばハイネケンの冷蔵ショーケースはオークションで7万円を超えた。店で使うような冷蔵庫の状態が良いわけないのに。しばらくネットオークションに張り付いていたが、チョコラBBのデコレーションの冷蔵ショーケースですら3万円を超えたときは笑ってしまった。だって全身ピンク色だ。あれは流石にオシャレか?

 結局、自身で装飾したほうがそれなりに安く仕上がるだろうと結論付けた。正規品ではないが…中古にそんな額はとても出せない。故にジャックを直せればそれほど安いことはないだろう?

 しかし先ほど長々と述べていた全ての項目にこの冷蔵ショーケースは該当する。まずデカい、次に捨てにくい、そして直しにくい、だ。とりわけ修理のほうは絶望的でとくに冷蔵機能が失われていたときはどうしようもなくなる。一般に冷蔵庫はコンプレッサーで気体から液体に変換されたフロンガスが内部で吸熱し、外部で排熱することで冷える構造である。ここでこのフロンの導線はすべて金属であることが求められ、また熱効率の観点から冷蔵庫とこの導線は構造上分離できないようになっている。したがってガス漏れが生じたらエアコンと異なり修理不可能となり、コンプレッサーが故障しても交換できないため修理不可能となる。コンプレッサー上の制御回路が故障したとしても、コンプレッサー自体が外せないためやはり絶望的だろう。ほしいからジャックで買うことは決めたが、冷蔵機能がジャンクは選択肢から外した。

 実はこのタイプの冷蔵ショーケースは基本的に店や販売戦略で使用されていたものがオークション市場に出回るため、保証はそもそもなく、すべてはジャンク品となる。運が良ければ状態の良いいいものに出会えるはずだ。

 早速オークションで手に入れた。説明文によると冷蔵庫としては機能するらしい。掲載された写真には丁寧に温度計で計測したものが載せてあった。だが広告部分のライトはつかないらしい。

 -SC21B-どこかの中国メーカの冷蔵ショーケースの型番のことである。型番にはなじみがないかと思われるが、実はこのメーカーの冷蔵ショーケースはよく街中で見ることができる。

 レッドブルやZONEといったエナジードリンクはよくこのタイプの冷蔵ショーケースに入れられて販売されている。もちろん、一般的で売られているものとは異なり各メーカーごとにデコレーションされた広告を伴ったものであり、おそらく販売戦略の一環として筐体事スーパーやコンビニに卸されているのだろう。日本ではSC40Bという型番のものが主流であり、この40という数字は容量が40Lであることを意味している。

 SC21Bは同様に21Lの容量であり、先のものと比較すると一回り小さい。日本では正規の手段では販売されておらず、完全に保証外の代物だ。ちなみに同様の製品として同じく中華ハイセンス製のコカ・コーラデコレーションされた冷蔵ショーケースも街中、一際ジャンクのような店で見ることができる。これは流通品が多く、また安価で飲料メーカーの正規ライセンスとしてでなく売られているためだと考えられる。いずれにせよ碌なものではない。

 このデコレーションはシャークエナジーというエナジードリンクらしいが見たことないものだった。

 しかしながら…届いてすぐわかったことは、相当状態が悪いということだった。

 これは塗装ではなく、デコレーション用に貼られたシールだったのだが、貼り方が甘くよれてしまっている。

 下面はネジ等に錆がはびこり動かすたびに赤錆が落ちる。

 だが、最大の問題はたばこのヤニにまみれているという点だった。

 冷蔵機能のみに注視していたために状態を気にしなさ過ぎた。こういったものがたばこの吸える飲み屋等でおかれてたって何の不思議もなかったということは全く考慮していなかった…。

もう少し状態を見てみよう。よれたシールをはがしたらプレミアムなメーカーのロゴが出るだろうか?ーただの黒壁だった。しかもシールの接着剤が長年の劣化でともかく臭い。この段階でどこかに投げ捨てたくなった。

 まだ生きてるとされるコンプレッサーを見てみよう。このサイズの冷蔵庫にしては大変立派なものがついている。だがここはとくに汚く、錆びたくっている。

 最大の売りである広告灯はどうなっているだろうか。

 これは、、、驚いた。というか酷い。冷蔵用コンプレッサーにつながるAC100Vが分岐して蛍光灯に刺さっているだけである。しかも接続はメガネコネクタだ。その光が冷蔵庫内部の光と広告部の光を兼任している構造だった。つまり、ただの蛍光灯を付けた冷蔵庫ってだけであった。

 冷蔵庫内部のランプが点灯しませんって、ただ蛍光灯が切れただけの話だった。だがこの構造はあまりにも馬鹿らしいので二度と使うことはない。取り外してゴミ箱へ。

 温度調節はよくある冷蔵庫用のサーモスタットだった。構造はシンプルで温度の変化に合わせて接点がつながったり離れたりする。調節つまみではその物理的な距離感を変えている。

 冷蔵庫なので間には断熱材が注入されているようだ。吹付式だったようで一部からはみ出ている。これが多孔質なため特に臭い。シーディングしよう。

 またランプの光が冷蔵庫内部に透過するための部分はアルミテープでおおわれており、あまりにも雑なので誰かが手を加えたのかと考えたが、これが正規品の作りのようだ。

 錆びきった下部ネジを何とか回し、冷蔵庫の扉を分離する。

 冷蔵庫なだけあって、密閉され常に開いていないため内部はましかと考えたが全くそんなことない。

 むしろ内部が一番汚い。この中でタバコを吸わなきゃこうはならんだろう。どんな治安が悪い店にあったんだ。

 冷媒が通るパネルはねじ止めされて固定されている。しかし構造上はここを外しても溶接されているため冷蔵庫から分離することはできない。この裏側もすごい汚れに違いない。

 ついにここまで分解した。コンプレッサー以外は取り外したことになる。

 シールの残った接着剤はお馴染みの5-56で吹いて剥がす。

 暫くたってから指でこするとこんな感じでポロポロ残った接着面が落ちていく。しかし残留接着剤面積が十分に大きいので効果は限定的だった。

 あまりにも汚い&臭いのでひとまず全体を洗うことにした。もちろんこれでは十分ではないが、ここまで汚いとなると作業もままならない。

 大まかな汚れは流し取り、匂いも一定には落ち着いた。ここから使えるところまで持っていくわけだが、先が長いので途方に暮れる工程もはさんだ。

 はじめに取り掛かるべきは、背面のコンプレッサー台だろう。何故かここは塗装もされておらず錆びまくっている。

 何とか錆びたネジを回して取り外してみると、なるほどこれは汚い。この部分は自前で何とか交換しよう。

 白錆になっているネジは当然交換するが、コンプレッサーと背面をつなぐ部分はゴムだった。コンプレッサーはよく振動するので防振・防音を兼ねているのだろうが経年劣化でカチカチである。

 ネジを買いにホームセンターに行き、サイズを確認したところなんと規格がISOでなくUNFだった。日本で売られていない製品にはこんなトラップもあるんだと感心していたが、ともあれUNF規格のものは見本はあっても基本売られていないのでなんとかネジをねじ込んで切り込みを入れなおすしかない。

 コンプレッサー底もやや錆がかっていたので鑢でこすり落とす。

 底はそもそも筐体のダメージも大きく、塗装が一部はげてしまっている。またはみ出した断熱材もボロボロになっているうえたばこのにおいを吸収してしまっているので、底面全域を塗装することでカバーしてしまう。飛びてたタップはハンマーで叩き戻す。

 塗装には一応耐熱塗料を用いる。だがその前にミッチャクロンを吹いて断熱材がこれ以上ボロボロにならないようにを接着&シールしてしまう。

 この冷蔵庫そのものの型番はどうなってもよいが、万が一コンプレッサーに何かあった時のために型番もマスキングテープで覆っておく。ただし先にも述べた通り、ここがだめだったら窓から放り投げるしかない。

 背面の台には廃材売り場にあったジャストサイズの板を用いた。

 何度か乾いては上塗りを繰り返し、全面を覆ってしまう。

 断熱材周りはダクトテープで覆ってしまう。こうすれば断熱材も落ちる心配もないし断熱性能も上がる、、、はずだ?

 先ほどの木材板に固定用の穴をあけて固定してみる。一応コンプレッサーは支えられているみたいだしこれでいいか。

 防振ゴム同様に標準で付いていた足ゴムもせっかくなので交換する。若干高くなったけど、それはそれで。

 ひとまず背面の清掃作業は終わり。ちなみに防振ゴムは丁度いいサイズがなかったので、防振スポンジを挟んでみた。

 その他分解できる部分はすべて分解し、匂いと汚れを完全に落としにかかる。

 擦る→漬けるを繰り返し完全に匂いも汚れも落とす。なお重曹や炭酸ソーダは白く跡が残りがちなので入念な水洗いも必須だ。

 さらに冷蔵庫内部を見てみよう。金属疲労で導管に穴が開くことに気を付けながら、冷媒路の裏側を見てみる。こりゃキッタネ。

 あらゆる洗剤と手段を駆使して純粋にきれいにした段階がコチラ。マシにはなったがこれでもまだ何も冷やす気にはなれない。

 こちらもマスキング。落ちなければ覆うまで。

 裏側も含めて少しずつ塗布していく。現段階で3度塗り位。

 あとで後悔しないように10回塗り位した後、冷媒路を元に戻して再度塗装する。見違えるほどにきれいになった。

 なぜかひしゃげた部分がある筐体もついでに買ったハンマーで叩きなおす。すなわち板金なわけだが、ここまでの工程がほぼ車だ。

 元々アルミテープが張られていたところにはダクトテープを張りなおした。自分で張ったほうがもともとものよりきれいに張れている気がする。

 洗いあがった各パーツはさらに塗装を加える。これで外見は新品さながらになるはず…?

 この冷蔵庫のほとんどのネジはタッピングネジで構成されていた。せっかくなので全部交換する。とくに錆びてるとかはないが、新しいもののほうが気持ちが良い。

 UNFで構成されたネジ穴はISOネジをねじ込んで切りなおす。何とかガタガタにならずに済んだ。

 ここまでくればようやく大好きな電気回路に入れる。といってもこれは100Vのコンセントをどうするかってぐらいなもんだけど。当然ライトはLEDにして…

 ケーブルタップを自作するとき、好き好んでパナソニックのものをよく買う。だがいつもインチキ電気配線をするので無理やり配線してプラスチックが閉まりきらずに壊してしまう。はじめは耐性がなっとらんとか文句を言っていたが、よく考えたらインチキを許さないという点でとても優秀な構造だと感心した。そんなわけで今回も写真通り、スリーブを半田付けして無理やり挟んでとしたら粉々になった。

 しかたがないので冷蔵庫の挙動だけでも確認しようと思い、ジャンク配線でいざ起動。

 おー動くし冷える!冷え方が急すぎてものすごい結露が発生した。ガス漏れもなさそうだ。

 ここで問題が発生した。コンプレッサーってこんなに熱くなるんだ。底面がスポンジと木材じゃ火事になる。写真のようにスポンジが溶けて跡になってしまった。いままでコンプレッサーなんて触ったことがなかったから驚いた。それとも挙動がおかしいんだろうか?ともかく対策が必要だ。

 耐熱性アルミ合板を購入。はじめから底面の素材候補にあったのだが安くケチった。結局買うことになったわけだが。だから元々の底面は裸金属で通気性の良い形してたんだな。

 コンプレッサー固定用の素材も選りすぐりで金をかけた。さすがに200度は超えないだろう…かな(※耐熱200度)。

 ネジ穴を覆ってしまう箇所は印をつけて加工。この手の作業がゴミも手間も精度もかかるので嫌い。

 コンプレッサーの重さも考え、補強にさらに足ゴムと固定箇所を2か所追加した。

 しっかり固定されたし強度も大丈夫そうだ。見た目もこちらのほうが良さげだ。

 気を取り直して電気回路へ。ひとまずLED一つでどれくらい明るくなるのか確かめる。100均で鏡を買い、下向きに光を集めるとこんな感じ。

 広告灯がどうなるのかわからないので組み立てることに。しかしシャークエナジーが貼られていたプラ板はうまく剥がれないしやっぱり汚いので自作する。白色のアクリル板を用意した。

 サイズを測ってカッターで上手く切断する。しかしこのアクリル板、多少光の透過性はあるが大分暗くなる。なるほどだから元々のものは透明だったのか。なおかつ光源は蛍光灯だったのでより工夫した結果だったようだ。

 早速取り付け、実験的にライトをつけてみる。

 うーん、暗い。内部点灯用ライトと広告灯部分は分けたほうがよさそうだ。

 ドン・キホーテで買ってきた。せっかくなので既存の製品にはないオシャレさを出してみよう。

 冷蔵庫の内部はこのLEDテープライトを用いる。ぐるぐる巻きにして2m分入れた。多分ほんとは切ったほうが電力的にも輝度的にも効率が良いだろうけど、余すことなく使うという貧乏性が出た。

 このままつけてみると十二分に明るい。冷蔵庫の内部の灯に力を振り絞ってほしいので先ほどの100均鏡で蓋をする。

 いい感じだ。

 わざわざ光源を分けたにもかかわらず、LEDは2つにしたほうが(内部の)バランスが良いという理由で2つ搭載型へ。回路を製作(インチキ)する。

 最終的に天板内部の構成はこんな感じになった。AC100Vを内部で分配している。コンプレッサー側の回路には見栄えのためにわざわざ端子台まで搭載した。

 広告灯部分は飲料メーカーにこだわる必要もとくになかったので、適当にメーカのデザインが合いそうなロゴを拝借して貼ってみた。少しずれちゃったけどまぁ悪くない。ついでに稼働試験を実施したところ、中のお茶はキンキンに冷えあがった。

 ちなみに内部のLEDはリモコンで色が変更することができる。内部の飲料の種類や音楽、雰囲気によって合わせて使うのが吉だろう。

 ここまできたら後は楽しむだけだ!てなわけでギネス…第三のビールを買ってきた。ギネスは高すぎた。

 入れてみてビックリ!サイズが350ml缶に合ってない。なるほどこれはエナジードリンク用だ!

 箱で買った24本のうち4本は外に放出された上、構造上ライトが上部にしかないので飲み物が詰まると色によって明るいところと暗いところが生じてしまいなんともバランスが悪い。

 こんな感じで自宅に設置された。もう汚くもないし臭くもない。普通に使えるしオシャレだ。

 これで夢は叶ったわけだが、腑には落ちない。ともかく修理以前の手間と時間がかかったしコストは装飾費が本体の倍以上かかってる。結果論で言えば新品を買ったほうが今後の保証まで含めて安上がりだったに違いない。

 はじめにふりかえると、やはりジャンク品とは常にリスクが付きまとう。その中で技術を十分に持ち合わせて修理できるということよりも、低リスクなものを発見、選択できるという能力がジャンク屋に求められる能力なのではないだろうか。

 今回は一応何とかなったが…近いうちにコンプレッサーが壊れたらと思うと恐ろしい。もうしない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です